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ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男/感想

観ようと思っていて見逃してしまった、クリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」と対をなすような作品、「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」を観てきました。

日本人メイクアップアーティストの辻一弘さんがゲイリー・オールドマンの特殊メイクで日本人としては久しぶりにオスカー(メイクアップ&ヘアスタイリング賞)を受賞した作品でもあります。

注意! ネタバレを大いに含みます。


映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』予告編

内容紹介

名優ゲイリー・オールドマンがイギリスの政治家ウィンストン・チャーチルを演じ、第90回アカデミー賞で主演男優賞を受賞した歴史ドラマ。チャーチルの首相就任からダンケルクの戦いまでの知られざる4週間を、「つぐない」のジョー・ライト監督のメガホンで描いた。第2次世界大戦初期、ナチスドイツによってフランスが陥落寸前にまで追い込まれ、イギリスにも侵略の脅威が迫っていた。連合軍が北フランスの港町ダンケルクの浜辺で窮地に陥る中、就任したばかりの英国首相ウィンストン・チャーチルの手にヨーロッパ中の運命が委ねられることに。ヒトラーとの和平交渉か徹底抗戦か、究極の選択を迫られるチャーチルだったが……。(映画.comより)

ひどい邦題だ。配給会社のセンスを疑う。

これなら原題「Darkest Hour」そのままの方がいくらかマシだったのではないだろうか。 邦題よりも余程映画の中身を表していると思える。

The darkest hour is just before the dawn. (最も暗い時が夜明けの始まり)

そういうことわざがあるそうだが、本作のストーリーを的確に要約している。

ゲーリー・オールドマンの揺るぎない演技

オールドマンといえば「シド・アンド・ナンシー」や「レオン」ような狂気じみた演技を思い浮かべる方も多いと思う。

しかし最近は「ダークナイト」シリーズでのゴードン役でまともそうな人間を演じていたから少しイメージが変わっているかもしれない。

とはいえ、そんな狂った男を演じさせれば当代随一のオールドマンがチャーチルである。伝記に載りそうな歴史上の人物を演じるのは彼のキャリアでも初めてではないだろうか。

ちょっと危惧と期待を持って本作を観たのだが、心配は杞憂であった。特殊メイクでほとんどチャーチルになりきったオールドマンは、マシンガンのように喋り、雄牛のように飲み食いし(本当はグルメだったらしい)、繊細な表情を演じきるのだ。

本作はある意味オールドマンのワンマンショーである。

息を飲む特殊メイク

辻さんのチャーチルの特殊メイクは本当に素晴らしい。元々のオールドマンの顔とは似ても似つかないものになっている。当然だがアップになっても作りものらしいところはまったく感じられない。チャーチルは作品の最初から最後まで出突っ張りだしよく喋るしよく食べるしよく飲む、そんな役なのによくもこんなメイクができるものだ感心する。

辻さんは高校を卒業した後、特殊メイクを極めるため渡米したそうだ。メイクに限らず才能のある人、才能は疑問符でも根性のある人は日本に燻らず、アメリカなりヨーロッパなりに若いうちからどんどん渡って現地で腕を磨いた方がいいと思う。

演技やメイクに比べるとちょっとね

ストーリーは大体歴史通りとはいえ割と陳腐だ。

リーダーの演説で盛り上がるところなんて「インディペンデンスデー」英国版と言えなくもない。

また、チャーチルをヒーローとして描きすぎて贔屓の引き倒しみたいになっている。チャーチルは当時の人らしく有色人種に対して優越(差別)意識があったので、地下鉄のシーンにあるような黒人と馴れ合うことなど間違ってもしなかったであろう。現代のポリティカルコレクトネスに沿った描写であると言える。

ドキュメンタリーではないのでストーリーを盛り上げるため史実にない話を盛り込むのは必然だと思うのだが、抗戦か和平かで追い詰められたチャーチルが乗ったことのない地下鉄に乗り込み庶民の意見に耳を傾けるというのは、作り話にしても出来過ぎというか嘘臭いというか、作り手側としてはいいシーンのつもりかもしれないが正直鼻白むこと甚だしい。

舞台の裏では歴史上最大規模の撤退戦が行われているのに、それをほとんど描かないというのはアイデアとして面白く、チャーチルの苦悩や葛藤を集中して語る上で緊張感を途切らせることのないストーリーテリングになったと思う。

「ダンケルク」が観たくなった

あちらはほとんど兵士しか描写されておらず、歴史的背景はバッサリ切ってあるらしい。 本作と「ダンケルク」はお互いを補完する関係になるのかもしれない。 同時期にこういう映画が2本製作されたのは単なる偶然としても興味深い。

オールドマンの超絶演技と辻さんの神業的メイクを観に行くだけで元は十分取れるので、時間と金に余裕のある方はぜひ劇場でご覧ください。