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壊れた心は元通りにはできないが、折り合いをつけて生きることはできる 映画 マンチェスター・バイ・ザ・シー(2016年 アメリカ) 感想

アメリカの小さな田舎町を描いた映画を最近立て続けに観る機会がありました。
「スリービルボード」と「ゲットアウト」そして「マンチェスター・バイ・ザ・シー」です。 今回は一番最近に観た「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の感想です。

ネタバレとか気にしないで書くのでよろしくお願いします。

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アカデミー主演男優賞受賞『マンチェスター・バイ・ザ・シー』予告編

作品内容

リー・チャンドラーは短気な性格で血の気が多く一匹狼で、ボストンの住宅街で便利屋として生計を立てていた。 ある冬の日、リーは兄のジョーが心臓発作で亡くなったとの電話を受けた。故郷の町「マンチェスター・バイ・ザ・シー」に帰ったリーは、自分が16歳になるジョーの息子の後見人に選出されたことを知らされる。兄を失った悲しみや自分に甥が養育できるだろうかという不安に向き合うリーだったが、彼はそれ以上に暗い過去、重い問題を抱えていた。(ウィキペディアより引用)

導入からストーリーに引き込まれる

本作は同名の実在する街を舞台にしています。
アメリカ東海岸ボストンから北東へ車で1時間半、人口5,000人程の小さな町です。

映画の導入部、船の上で大人と子供がサメの冗談を言い合い2人の距離の近さを説明セリフを使うこともなく自然に表現しています。
ここだけで作品のポテンシャルに期待してしまいます。

ストーリーは現在進行形の話に主人公の過去をフラッシュバックさせながら進んでいきます。最初は少々とっつきにくい構成なのですがストーリーが進むに連れて引き込まれていきました。

暗い過去

主人公は些細なことから周囲と諍いを起こしFワードをバンバン使うわ、すぐに手が出るわでかなり荒っぽい性格です。

でもそれにはわけがあるのです。
今は独り身ですが以前は妻と3人の子どもたちに囲まれた幸せな家庭を築いていました。
ところがある夜、自身の過失により自宅が火事になりました。そして不幸なことに3人の子どもたちを一度に失うことになるのです。

天災にせよ事故にせよ子どもを失うことは辛いことでしょう。
それが主人公の場合は酒に酔った上での自身の過失が原因なのです。心の内を想像することもできません。

壊れた心

作品中のセリフで「心が壊れる」という表現があります。
自身の過失で家族を失うことにより主人公(と妻)の心は壊れてしまったのです。
悲しみという言葉では言い表すことができない大きな喪失感。 壊れた心は他の人やモノ、コトでは埋めることはできないし、忘れることもできません。

少しでも辛い状況から遠ざかるため主人公は故郷を離れました。
正面から壊れた心に向き合うことができなかったのです。

それなのに兄の突然の死により故郷に帰らざるを得なくなります。
兄の死により一人遺された、いかにも現代風の甥っ子に振り回されつつ故郷での暮らしを始めますが、最後にはまた故郷を離れることになります。

子どもたちとの幸せだった生活を思い起こされる故郷に耐えられなくなったのです。

安易なエンディングを選ばない

こういう話では最後には主人公が救われたり、あるいは生きることを諦めたりさせてエンディングを感動的に演出する選択もあったでしょうが、本作は主人公が劇的に救われることもなく終わります。

壊れた心は再生されることはありませんでした。
でも、現実の世界はそういうものではないでしょうか。

心の傷が薬で治ることもないし、神や仏が救ってくれることもないでしょう(人によりますが)。

とはいえ、僕たちはそういった壊れた心と折り合いをつけて生きていくことはできるのではないでしょうか。
主人公は今後も酒を飲んで喧嘩したり周囲の人と諍いを起こしたりしながらも壊れた心と折り合いをつけて生きていくだろうと思えたし、そうであってほしいと願わずにはいられませんでした。

ボストンに戻る主人公はこれまでの地下室のような殺風景なワンルームから、ソファがおける二部屋の家に引っ越すと甥に告げます。甥がボストンにやってきた時のために。

少しの変化ですが折り合いをつけようとする気持ちの変化のサインかもしれないと感じました。