Kiriuri.Net

アラフィフのオヤジが読んでくれる人が楽しめる映画、本、音楽などなどをボチボチ切り売りしていきます。

【感想】映画 シェープ・オブ・ウォーター 水の形は定まらない

シェープ・オブ・ウォーター (2017年 アメリカ)

f:id:kiriurinet:20180516162301j:plain

第90回アカデミー賞作品賞を受賞している作品ですが、半魚人が一方の主人公です。 昨年の「ムーンライト」の回でも書きましたがアカデミー賞は、作品の単なる良し悪しだけでなく、その時々の社会情勢により選ばれる作品も変わってきます。 「シェープ・オブ・ウォーター」にも受賞するような背景があったのでしょうか。

注意! ネタバレを大いに含みます。

予告編


『シェイプ・オブ・ウォーター』日本版予告編

この映画は・・・

「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロが監督・脚本・製作を手がけ、2017年・第74回ベネチア国際映画祭の金獅子賞、第90回アカデミー賞の作品賞ほか4部門を受賞したファンタジーラブストーリー。 1962年、冷戦下のアメリカ。政府の極秘研究所で清掃員として働く女性イライザは、研究所内に密かに運び込まれた不思議な生き物を目撃する。イライザはアマゾンで神のように崇拝されていたという“彼”にすっかり心を奪われ、こっそり会いに行くように。幼少期のトラウマで声が出せないイライザだったが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は不要で、2人は少しずつ心を通わせていく。そんな矢先、イライザは“彼”が実験の犠牲になることを知る。 「ブルージャスミン」のサリー・ホーキンスがイライザ役で主演を務め、イライザを支える友人役に「ドリーム」のオクタビア・スペンサーと「扉をたたく人」のリチャード・ジェンキンス、イライザと“彼”を追い詰める軍人ストリックランド役に「マン・オブ・スティール」のマイケル・シャノン。アカデミー賞では同年最多の全13部門にノミネートされ、作品、監督、美術、音楽の4部門を受賞した。(映画.COMより)


「水の形」は定まらない

半魚人が主要な登場人物であるが、決してゲテモノ映画ではない。かといって、安い恋愛映画でもない。 登場人物それぞれが何らかの特性(ハンディキャップ、超自然的能力など)を持っており、それが半魚人が物語に登場してくることで、他の人物たちの特性を反映する鏡になっているようだった。

それは主人公が唖者であること、主人公の親友の画家がゲイであること、主人公の職場の友人が人種的マイノリティーであることはもちろんだが、主人公と敵対するマジョリティである白人男性も内面に特性(サディスティックな性癖)を持っていることが明らかになってくる。

元来、物語というものは何らかのキャラクター(=特性)を持っているものである。 通常のストーリーではその特性を生かしてストーリーをドライブしていく。 本作もそれぞれの登場人物の特性が物語を展開していく原動力になっている。

定まらない水の形は人物それぞれの特性を現しているような気がした。

古いモラルの瓦解

物語の時代設定も秀逸である。 1962年は建国から続く古いアメリカのモラルがもっともピークに達しいていた頃であると思われる。その数年後からベトナム戦争の本格化し公民権運動が大きなうねりとなってアメリカ中を席巻する。 アメリカの古いモラルの大きな瓦解が始まるのである。この映画で描かれた古いモラルが過去のものとなっていく。 とはいえ様々な差別の土台となっている古い考え方がしぶとく生き残っているのは現在のアメリカをみれば明白である。

心の変化

ここでひとつ僕には理解できなかった部分について。 主人公が半魚人への思いが好奇心から恋心に変わっていく明確な理由がわからなかったのである。 最初はハンディキャップを持ったものと異人として虐げられるもの同士の共感があったのだろう。それはとてもわかりやすく描かれていた、しかしその思いが愛情へと変わっていく展開が僕にはわからなかったのである。 ま、恋に理由はいらないのかもしれないが…。

そこはわからなかったものの、それぞれの特性を持ちつつ個々のキャラクター達が各々の抱える悩みを克服し一歩づつ進んで行くのはとても気持ちよく感じられた。

アカデミーに選ばれた理由

さて、ここまでで僕としては十分に傑作だと思えていてアカデミー賞を受賞したとかは、あんまり関係なくなってくるのだが、一応その理由について考察してみる。

この作品はアメリカの社会で虐げられ差別されてきたものが中心となった物語である。近年、アカデミーではマイノリティに目を向けた作品が取り上げられる傾向が高い。昨年の「ムーンライト」や今年の「君の名前で僕を呼んで」などである。 本作もすでに述べてきた通り各キャラクターが何らかの特性(ハンディキャップ、人種的マイノリティ、性的マイノリティ)を持っている。そして、その特性を無理にクローズアップするのではなく、一人の人間を形作る要素の一つに過ぎないという描き方をしている。(ただし、その要素は重要である)

考えてみれば、ハリウッド自体がアメリカ東部で迫害されたユダヤ人たちが成立させたものであることからハリウッドこそマイノリティへの眼差しを常に持っていなければならないのではないだろうか。


劇場での公開はほぼ終わってしまいましたが、ブルーレイも発売されるようですのでお時間がありましたら是非ご覧ください。