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引きの美学:この世界の片隅に 感想

この世界の片隅に(2016年 日本)

 

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原作を読んだこと

前回本作を見た後すぐに原作本を購入。

家の周辺、自由が丘、二子玉川を回って5軒目でやっと入手することができた。

すごく売れているのか、まだ重版が間に合っていないのか。売っていたお店(紀伊国屋書店)では平積みされていたのですごく売れていると思っておくことにした(笑)。

こうの史代の作品は「夕凪の街 桜の国」を昔読んだことがあり、その時はきちんと資料(史料)を調べ考証して書いてあることに好感を持った。「夕凪の街 桜の国」も原爆被爆後の人々をテーマにしておりベースは残酷な話なのだがホワッとした画風が深刻さを和らげており、その点は本作と同じ印象である。過去同様に原爆をテーマにした「はだしのゲン」の暑苦しいようなリアルさとは真逆である。

さて、本の内容としては映画はかなり原作に忠実に制作されていることが確認できる。とはいえ、2時間程度の尺の中に収める必要上、映画では大きく省かれていたエピソードがあった。それは遊郭で働くりんさんとの絡みであり原作では映画のりんさんのセリフがどういう意味なのかよくわかるように描かれている。そのことで周作の人となりの違う面が見えて聖人君子ではなくそういうところへも通う普通の青年だったんだなぁと思えて興味深かった。

そして、単にストーリーだけでなく合間に加えられた「鬼いちゃん(すずさんのお兄ちゃん)南洋冒険記」は微笑ましく、また愛国イロハカルタは当時の世相文化を端的に反映させる題材をうまく配していることに感心した。 なにより映画を先に見たおかげで漫画のすずさんの台詞は全てのんの声で再生され、なんだか得した気分になった。

もし映画を見て本作に心を動かされた方はぜひ原作にも手を出して、さらに「片隅」色に染まってもらいたいと思う。

 

 再度鑑賞したこと

本作について妻に熱弁したところ、そこまで言うなら見てみようということになり、また自分自身ももう一度見てみたかったこともあり、先日再び本作を映画館まで観に行くことになった。平日の昼間に行ったものの劇場は予想通り混雑していた(8割くらいの入りか)。また、これも平日だったためか年配の方が多かったように見えた。

戦中を知っている方はもうなかなか劇場に足を運ぶのは難しいかもしれないが、できればそういう方も含め広い世代に見て欲しい作品である。

映画:原作:映画というサンドイッチ状態で2回目の鑑賞となったため1回目でよく理解できなかったところを原作で理解して2回目で映像を確認するという贅沢を味わうことができた。

この作品は2回目だからと飽きることは全然なく1回目で気付かなかったことが2回目で気づかされたり、例えば憲兵が登場するシーンでは2回目でもちゃんと可笑しくて笑うことができた。

妻も本作を気に入ってくれたらしく映画が終わって帰宅後夕飯を食べながら感想大会を開催することとなった。

妻は戦争を描くのに、悲惨さと辛さを描きたくなるのは当たり前なのに少し引いて物語を作っていることに感心したそうで、その角度や視線、この程度に抑えた描写はよほどの忍耐かセンスが必要になるとも。そういった「引きの美学」が素晴らしかったとのことでした。(なんか妻の感想の方がカッコいい…) さて、2回目見ても1回目でも楽しめ、特にアニメ好きでもない人でも感動した本作、ぜひ劇場に足を運んでみてはいかがだろうか。