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転換点に立つ意識:問題は英国ではない、EUなのだ

問題は英国ではない、EUなのだ

著者:エマニュエル・トッド

僕がこの本を手に取ったのは、イギリスのEUからの離脱(ブレグジット)、先日のアメリカ大統領選でのトランプの勝利、フランス、オーストリアでの、右派の躍進。既存政治へのノーが、反グローバリズム、、移民排斥と相まって世界を席巻しつつある中でその背景や今後の世界の動きを知りたかったからです。

 

著者のエマニュエル・トッドは人口構成や家族の成り立ち、教育の普及度(識字率)などの視点から社会学や歴史学を研究しているフランスの知識人でソ連の崩壊やその後の冷戦の終結を予言した学者としても有名です。

 

ブレグジットとトランプの当選の背景の一つに移民の問題があると言われています。しかしながら、トッドはイギリスに関してはEUに渡してしまった国家主権を改めて自らの国に取り戻したいということが動機であると述べています。また、トランプについては民主党の候補者争いで躍進したサンダースとともにグローバル化から置いて行かれた労働者階級のもう一度自分達の国レベルに取り戻す(「アメリカを再び偉大な国にする」というトランプのスローガンに端的に表れている)という意思が表されたもであると言っています。

 

英米はグローバル化の最先端として主に経済面で怒涛のように世界を席巻してきたわけですが、すでにグローバリゼーションに対する疲れが国内に(特にグローバリゼーションに報われなかった層に)蔓延しているのが二つの現象の原因と言えそうです。

 

今後の世界の動きについて、特にヨーロッパは本の題名にある通りブレグジットの影響はイギリスにではなくEUにとって問題となって残るとのこと。これまでEUは英仏とドイツという二軸でバランスを取ってきていたがブレグジット以後はドイツを中心とした形態となり他の国(フランスでさえ)ドイツに追従する。ドイツの緊縮財政の影響から各国も同様に緊縮財政を実行すればならなくなってくるといいます。緊縮財政はドイツ以外の国では失業率が高止まりしたままの不景気を長引かせる結果になると考えられるそうです。

 

一方ドイツは過去からの移民政策によりトルコ移民が大量にいるのに同化が全然進んでいない上今後はシリア難民までも国の中に取り込んでいくことは大きな問題になると考えられます。

トッドによるとドイツは日本同様に他民族を自らの集団の中に取り込ませることに慣れていないため、今後の移民政策が大きな懸念になると考えられるそうです。

 

振り返って日本の問題はやはり歪な人口構成=高齢化、少子化が大きな問題であり、トッドしては文化的な困難は伴うものの移民を受け入れることを勧めています。

日本人として考えると移民受け入れは非常に困難としか思えないですよね。その割に少子化対策に国はあんまり乗り気ではないみたいだし…。

 

個別の国ごとの話も載っていますが、トッド特有の歴史の見方についても一章が割かれていて歴史好きの人間としては非常に興味深く読むことができました。特に識字率が高まり一定の割合に達すると国民から民主化に対する運動が始まるというのは、ここ数年のアラブの春の動きと絡めて解説されておりとても面白かったです。

 

難しい専門用語もほとんど出てこない上、語り口も平易なので読みやすいいです。現在の国際情勢を紐解く一つの見方として読んでみると知的好奇心が刺激されて面白い本でした。