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古代史最大のフィクサー:比ぶ者なき 感想

比ぶ者なき 馳星周

 

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万世一系、天孫降臨、聖徳太子

すべてこの男が作り出した。

時は七世紀末。先の大王から疎まれ、不遇の時を過ごした藤原史(ふひと)。

彼の胸には、畏ろしき野望が秘められていた。それは、「日本書紀」という名の神話を創り上げ、天皇を神にすること。そして自らも神になることで、藤原家に永遠の繁栄をもたらすことであった。古代史に隠された闇を抉り出す、著者初の歴史小説にして会心作!(本書帯より引用)

 

Amazonに散々お世話になっている身としてはいささか言いにくいのですが、やはり実物の本屋さんは素晴らしい。

本書との出会いは某書店にてフラフラ新刊書を見ている時にまだ棚に並べる前の山積みされている本の中から本書の背表紙を見て「藤原不比等の話を馳星周が書いたのか」と僕の頭にフラグが立ったのでした。

藤原不比等については教科書プラスαくらいの知識しか持っていませんが、奈良時代に比肩しうる者なき権力者として君臨し藤原氏隆盛の礎を築いた人物という認識はありました。

馳星周については正直に言うと今まで一冊も読んだことはありません。ただハードボイルド小説の第一人者という認識でした。

この二つの認識が頭の中で化学反応を起こして、この本は面白いはずだという直感に結びつきました。こういう時は多少高い単行本でも手に入れておくべきというのが僕の中の掟です。

 

久しぶりに夜更かしして本を読みました。結局1日半くらいで読み終えたことになるんですかね。

 

恐るべし、不比等! その深謀遠慮には本当に舌を巻きます。主人公だから当たり前なのですがやることなすことすべてビシビシと当たりまくり、その野望を実現していきます。細かいところは実際に読む楽しみを奪ってしまいますのでここでは触れませんが、あえて記すとすれば持統天皇との丁々発止のやり取り(言葉遣いはすごく丁寧だけど)は古代史モノといえども手に汗握る攻防で本書の一番の見せ場と言ってもいいでしょう。

 

この時期、持統天皇以降女帝の時代が続くのですが、その人物たちがいずれも執念を燃やしてその役割を全うしていくのはちょっとした感動を覚えます。逆に不比等以外の男性登場人物が少し影が薄いのは不比等の恐ろしさを浮き彫りにしていくには仕方のないことかもしれません。

 

全体的によくできた物語なのですが少し気になった点をいうと、史実だから仕方がないのですが、不比等がドンドン登っていくばかりで大きな挫折がないためいささかストーリーが平板に感じます。(少しだけね)

物語が語られる以前(壬申の乱直後)には鬱屈した期間があったようですからその部分に言及してもよかったのではないかと思いました。

 

奈良時代はこの後も色々面白い展開が続きますので続編なんかあっても良いかもしれません。

(あるいは遡って大化の改新から壬申の乱あたりとかでもいいですね)

 

古代史は人の姻戚関係や名前が難しいからと喰わず嫌いのあなた、古代史モノの登竜門としては最適な本ですのでぜひ手に取ってみてください。