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アラフィフのオヤジが読んでくれる人が楽しめる映画、本、音楽などなどをボチボチ切り売りしていきます。

読書という行為そのものの面白さ(電子書籍、恐るるに足らず)ー もうすぐ絶滅するという紙の書物について 感想

もうすぐ絶滅するという紙の書物について
ウンベルト・エーコ、ジャン・クロード・カリエール

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目次

 

  • 序文
  • 本は死なない
  • 耐久メディアほどはかないものはない
  • 鶏が道を横切らなくなるには一世紀かかった
  • ワーテルローの戦いの参戦者全員の名前を列挙すること
  • 落選者たちの復活戦
  • 今日出版される本はいずれもポスト・インキュナビラである
  • 是が非でも私たちのもとに届くことを望んだ書物たち
  • 過去についての我々の知識は、馬鹿や間抜けや敵が書いたものに由来している
  • 何によっても止められない自己顕示欲
  • 珍説愚説礼賛
  • インターネット、あるいは「記憶抹殺刑」の不可能性
  • 炎による検閲
  • 我々が読まなかったすべての本
  • 祭壇上のミサ典書、「地獄」にかくまわれた非公開本
  • 死んだあと蔵書をどうするか

 

博覧強記なふたり


難しそうな題名ですが対談の内容をまとめた本なので意外に気楽に読むことができました。
興味をもったきっかけは、対談者のうちのひとりであるウンベルト・エーコの小説「薔薇の名前」を以前に読んでいたからです。(傑作です)
「薔薇の名前」は中世の修道院を舞台に起きる連続殺人事件を推理していく作品で、後年ショーン・コネリー主演で映画化もされています。(おなじく傑作です)
エーコの作品は他にも「フーコーの振り子」、「プラハの墓地」2作を持っているのですが積読状態になっていて読めていません。トホホ。
また、読んでいくうちにわかったのですがもうひとりのジャン・クロード・カリエールは映画の脚本家で、高校時代に衝撃を受けた「ブリキの太鼓」の脚本を書いている人でした。(「ブリキの太鼓」は1979年に映画化されています。怪作です)
対談時すでに80歳を過ぎて、積み重ねられてきた古書、小説、詩、映画、演劇などに関する豊富な知識は本書を読んでいてもっともワクワクするところです。
僕も小さな頃からたくさんの本を読んできたつもりですが、当然足元に及ばず、実際に読んだ本さえも二人のように深く理解し記憶していることもありません。
超人的なふたりと比較することもないのですが、もっと身につく読書を心がけようとあらためて思いました。

 

電子書籍への恐るるにたらず

「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」という題名から、全編紙の本と電子書籍を対比して語っていくのかと思いましたが、実際にはこの本の四分の一程度を表しているに過ぎません。
しかし、最近スマートフォンやタブレットなどで読書をする機会が非常に増えてきた僕にとっては興味深い内容でした。
紙の本は、ハサミや車輪同様に発明された時点で完成されたものであり改良の余地は少ないとのことで、たとえ媒体が電子化されようとも紙の本は今後も残っていくとふたりは断言しています。
浅学菲才ながら僕もふたりの意見に賛成です。電子書籍を中心に本を買うようになったのは我が家の本棚にだんだん空きが少なくなってきたからです。置く場所さえあればたぶん紙の本を今後も買うことにするでしょう。
やっぱり、本は書いてある内容も大切ですが装丁も含めたモノとしての有難みもやはり大事なものに思えるからです。
あと本の匂いも好きです。本屋さんや図書館へ行くとその匂いだけでちょっと満足してしまいます。

 

インキュナビラ/古書の世界

本書を読んで初めて知った「インキュナビラ」という言葉。手短に説明するとグーテンベルクが活版印刷を発明していこう15世紀末までに出版された本(古書)を指します。(詳細はこちら
日本は活版印刷の歴史が短いためにあまり話題になりませんが(逆に日本は手書きの書籍が非常に多い)西洋の収集家たちの間では高級な趣味として存在しているようです。
対談をしているふたりはこのインキュナビラを収集しており、様々な古書を蔵書の一部に加えています。この本を読んでいくとそれに対する愛着がふたりからひしひしと感じられます。
たんに古い本というだけでなく、その本が自分の手に入るまで500年の間いったいどんな道を辿ってきたかを考えると感慨深いものがあるのでしょう。

 

自分にとって本/読書とは何か

この本を読んであらためて読書について考えてみました。
僕は小さな頃から本好きで、本(特にマンガ)さえ与えておけばおとなしくしている子供でした。三つ子の魂百までで、いまだに面白い本さえあれば比較的幸せですw
何がそんなに楽しいのだろうというと、やはり新しいことを知ること、興味を持った分野により明るくなること、面白いストーリーを追いかけることがたまらなく好きだということになります。
でも、この本を読んでふたりが指摘していたことで新しい理由を思いつきました。
それは本を読む行為そのものが好きだということです。中身も大事だけど読書という行為が好きなんだということが初めてわかったように思います。

 

なんだか最後はフェティシズムみたいになりましたが、皆さんも時間があったら何か一冊手にとってみてはいかがでしょうか。